株式会社moegi、いわきメダカの学校
片寄 里菜(かたよせ りな)さん
https://moegi.jp/
https://medaka-gakkou.com/
いつ創業し、どのような事業をされているのですか?
私は2018年5月8日に株式会社moegiを創業しました。当初は国産ドローンの開発に挑戦しましたが、事業化や資金面の困難から事業転換を余儀なくされました。そこで、ドローン開発で培った技術を応用し、位置情報や地図を活用したスマートデバイス向けアプリ開発に注力しています。現在は、位置情報管理ソリューションとして『CALINT(カリント)』を展開するとともに、福島県いわき市では「いわきメダカの学校」を開設し、メダカ飼育・販売を通じた地域に根ざした活動も行っています。
創業のきっかけを教えてください。またなぜ創業したのですか?
私は、日本が地震や自然災害の多い国であることを身近に感じ、「技術を通じて人の役に立ちたい」という想いから、株式会社moegiを創業しました。航空宇宙への憧れやIT・地図・ICTの知識を活かして、当初は国産ドローンの開発に挑戦し「日本の空を自由に」というスローガンのもと、人命やインフラの安全を支える事業を志しました。しかし、技術的・資金的な壁に直面しドローン開発を断念。その経験を活かし、創業から取り組んでいたアプリ開発に方向転換を行い、位置情報管理ソリューション「CALINT」の開発へと注力しました。「CALINT」は位置情報をベースに様々なシステムを組み合わせたもので、位置情報の記録および可視化を可能にするソリューションです。この技術は現在、さまざまな企業・団体において移動管理や業務効率化など多様な用途で活用されています。さらに、地域との関わりも重視し、2022年には福島県いわき市に「いわきメダカの学校」を開設しました。いわき市立 田人第二小学校 旧南大平分校を活用したこの施設では、メダカの飼育・観察・販売を通じて地域の教育や癒し、文化的価値の提供を行っています。moegiの創業の原点は、「技術を通じて人々の“安全”と“安心”を支えたい」という強い想いにあります。その想いを胸に、技術革新と地域貢献という両輪を大切にしながら、これからもさまざまな形で挑戦を続けて参ります。
創業してしばらく経ちました。実際にやってきてどうでしたか?
創業して一番大変だったのは、やはり資金繰りでした。弊社はまだ投資家からの出資を受けておらず、これまでの運営は、IT関連業務を依頼してくださった企業様からの収益や銀行からの融資、そして位置情報サービスをご利用いただいたお客様からのご支援によって支えられてきました。その過程で、社員や協力会社、技術者の方々が周りに集まり、一緒にサービスを築き上げてくださったことは非常に心強く、感謝の気持ちでいっぱいです。一方で、事業として理想を描くことはできても、まずは会社を存続させるために現実的な資金確保が欠かせませんでした。経営を続ける中で、「事業の夢を実現するためにも、まずは安定的に資金を確保することが最重要だ」と強く実感しました。また、想定外だったのはコロナ禍です。弊社のお客様の中には旅行関連の企業もあり、需要の急減で売上が大きく落ち込みました。一時は黒字転換も果たしましたが、その後は赤字が続き、非常に厳しい状況が続きました。しかし、第7期を迎えた現在では、お客様や案件が増加し、社員も増え、ついに再び黒字化を達成することができました。この瞬間は、創業以来の苦労が報われたように感じ、大きな喜びを覚えました。
苦労や想定外のことをどう乗り越えましたか?
起業してから苦労は数えきれません。最大の困難は、事業を続けるべきかどうか悩むほどの厳しい状況に直面したことです。資金繰りの不安や、将来の方向性に迷う場面もありました。しかし、そのたびに「自分を信じ、周囲を信じる」ことを大切にしてきました。これまでに出会った方々や専門家からの助言、さらに国や福島県の支援制度を積極的に活用することで、会社を存続させる力に変えることができました。一時は「会社を畳んで個人で働く道もあるのでは」と考えたこともあります。けれども冷静に自分を俯瞰したとき、会社員として働くよりも、起業家として挑戦を続ける方が自分に合っていると気づきました。もし会社員として働いていたら、常に悩みを抱えながら過ごしていたかもしれません。だからこそ、「今の会社を続けることが自分らしく生きる道だ」と腹を括りました。まずは会社を存続させることを最優先にし、その上で新しいサービスや事業を広げる努力を続けています。信頼できる仲間や支援制度の力を借りながら、一歩ずつ前に進んでこられたことが、これまでの最大の乗り越え方だと感じています。
今後の展開を聞かせてください。
今後の展開として「安定化」と「事業拡大」を同時に進めることです。まずは、既存の地図・位置情報サービスをより堅実な基盤とし、航空機に搭載されるナビゲーションシステムや計器類といった“航空機の電子装置”とも呼べる技術(アビオニクス)の国産化に力を入れ、日本発の信頼できる飛行支援技術を確立することを目指しています。また、ポータブル水道システムや無人船など、新しいモビリティやライフラインにつながる開発にも取り組み、人々の暮らしに役立つ技術を形にしていきます。3年後には、航空機免許や運航関連資格を活かし、実際の飛行機運用を見据えた事業基盤を築きたいと考え、多様な乗り物やモビリティをつなぐ情報サービスの提供を通じて、将来の発展に向けた礎を固めていきます。5年後には、福島県や東北地方、さらには日本各地において、空港や航空機関連の事業と連携し、新しいサービス開発を進めたいと考えています。特に、有事や災害時に役立つ仕組みを航空技術とICTの融合によって構築し、社会に貢献できる体制を整えていきます。そして10年後には、日本国内にとどまらず世界に視野を広げ、航空・海洋・陸上のモビリティとICTを結びつける国際的なソリューション企業へと成長させたいと思っています。人々の安心と利便性に直結するサービスを通じて、moegiの存在を社会に根付かせ、さらに大きな価値を提供していきたいと考えています。
起業を志す方へのアドバイス

これから創業を目指す方には、失敗を恐れずに、自分の「やりたいこと」を信念を持って進めていくことをお勧めします。会社を立ち上げた当初の想いはもちろん、事業を進める中では必ず悩みや壁、思わぬ障害に直面します。それでも「なぜ自分はこの事業をしているのか」を常に問い直し、自分を信じて挑戦を続けることが大切です。もしどうしても困難にぶつかり、自力で解決が難しいときには、身近な人の助けを借りたり、行政や公的機関が提供する支援制度を積極的に活用することをお勧めします。
アドバイザーからの一言片寄さんの歩みには、「あきらめず信じ続ける力」が一貫しています。国産ドローン開発という高い志に始まり、幾多の困難を乗り越えながらも、その根底にある「技術で人の安心と安全を守りたい」という理念を決して手放していません。注目すべきは、技術者にとどまらず、経営者として理想と現実のバランスを取りつつ、事業の形を柔軟に変化させてきた点です。また、「いわきメダカの学校」に象徴される地域に根ざした活動からは、片寄さんの温かさと社会への広い視野が伝わります。テクノロジーに軸足を置きながらも、地域の自然や人とのつながりを大切にする姿勢は、創業者の模範といえるでしょう。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |









