CATS9
坂本 知枝美 さん(さかもと ちえみ)さん
どのような事業をされているのですか?
本やWEBの文章をチェックする「校正」の仕事をメインに行っています。校正は、文章に誤字脱字がないか確認したり、表現に問題がないかをチェックする仕事です。そのほか、WEBに記事を書くライティングもしています。ライターとしてはまだ駆け出しですが、なるべくわかりやすく、必要なことを漏れなく伝えることの大切さを感じているところです。もちろん、興味を持っていただく工夫も必要ですね。
いつから起業を意識されましたか? どのような準備をしましたか?
起業前、私は有限会社雅粒社で「時の法令」という法律雑誌の企画・編集・校正に携わっていました。通算すると、38年に及びます。時の法令は、1950年に、独立行政法人国立印刷局(旧大蔵省印刷局)が、官報の姉妹版として創刊した政府刊行物でした。創刊号には吉田茂(内閣総理大臣)、幣原喜重郎(衆議院議長)、池田勇人(大蔵大臣)、宮沢俊義(東京大学教授)などそうそうたる面々が祝辞を寄せています。まだGHQの占領下にあった時代に創刊されたため、当時、国会では「国をつくり直す」必要から多くの法律が公布されていました。こうした新しい法律を国民にわかりやすく伝えることを目指したのが時の法令でしたから、メインの記事は、立法担当者の官僚が執筆する「法令解説」でした。しかし、それ以外の記事は自ら企画を立て、執筆者を探さなければなりません。このため、編集部に入った当時から、編集長から「自分の頭で考え、行動する」よう教えられてきました。自立した人間でなければ企画は立てられないという考えからです。これは、その後、私が仕事をする上での指針となりました。こうした薫陶を受けて、いま社会の動きとして知っておきたいテーマを深堀りしたり、これから議論が深まっていくことを期待されているテーマを取り上げ、各分野の専門家の方々に連載を依頼してきました。このことが私の財産となっていると思います。
起業のきっかけはなんですか?なぜ起業したのですか?
大蔵省印刷局が創刊した「時の法令」でしたが、印刷局が行政改革の嵐にさらされるときが来ます。印刷局の主な仕事はお札を刷ることですが、これを除き、印刷業務から手を引くべし、との判断が政府から下されました。民業を圧迫するという理由からです。こうして2003年に印刷局は独立行政法人となり、時の法令だけでなく、白書など書籍の出版から手を引くことになりました。紆余曲折ありましたが、当時、印刷局の外郭団体であった株式会社朝陽会が、出版を引き継いでくれました。歴史ある時の法令を廃刊にしたくはないと、様々な方がご助力くださった結果です。私たち雅粒社は、朝陽会から編集を請け負うという形で再出発することになりました。しかし、2022年2月、突然、朝陽会から時の法令の廃刊の決定を知らされました。長い間、定期購読者に支えられてきた時の法令でしたが、購読者の高齢化や引退など、昨今の厳しい出版状況に鑑みた結論です。これにより、雅粒社も廃業を決意しました。突然の出来事でしたが、これが私の起業の直接のきっかけとなりました。
あなたの事業の強み、アピールポイントは何でしょうか?
ここまでお答えしましたように、私は長い間、法律雑誌の企画・編集・校正を行ってきました。政府刊行物を手掛けてきたことから、今も白書など多くの政府系書籍の校正を請け負っています。その点では、校正については手堅いといいますか、安定感といったものがあると思います。例えば、ある省庁では、1円で入札した会社の仕事内容がお粗末だったという「事件」が起こり、担当者が頭を抱えたことがあります。これを避けるため、白書の入札前に「校正テスト」を行っています。こうしたテストで私は良い成績をおさめることができているため、元請け会社の受注につながっています。こうした書籍の校正というニッチな場所ではなく、WEBの記事などの文章チェックもしていますので、一度校正をお任せ下されば、文章が洗練されることがお分かりいただけるのではないか思います。また、多くの企画を立ててきましたので、今も多方向にアンテナを張っています。こうした姿勢はライティングに役立てることができるのではないかと考えています。
起業して感じることは?
否応なく飛び込んだフリーの世界ですが、起業当初の今年の4月、5月は白書の校正などの仕事を多くいただきました。これは、会社勤め時代を超える手ごたえで、大変ありがたいと思っています。また、白書校正の真っ最中に、ある大学から教科書の校正をいただき、嬉しい悲鳴となりました。会社時代に培った信頼が生きたと実感できる瞬間でした。とはいえ、6月に入るといったん風がやみます。こうしたことは、定期刊行物の編集を請け負っていたときにはなかった厳しさです。7月に入り、また仕事の依頼が来ていますが、コンスタントな種まきの大切さを痛感しています。また、新たに始めたライティングの仕事でも、不慣れなためご要望に応じきれなかったりすることがあり、試行錯誤が続いています。自分に足りなかった部分を分析して書き出し、今後どうすべきかを考えて次に備えています。頂いた仕事に丁寧に、真剣に取り組んでいくことで乗り越えていきたいと考えています。
起業を志す方へのアドバイス
私のように、ある日突然起業の機会が降ってくる、などという方は少ないかもしれません。多くの場合、準備を重ねて起業に踏み切られていることでしょう。そうしたトライの精神に敬意を表したいと思います。私がアドバイスできることがあるとすれば、誠心誠意を込めた仕事ぶりは誰かが見ていてくれるということでしょうか。月並みですが、事実だと思います。
アドバイザーからの一言文章のプロである坂本さんに、文章でコメントするのも気が引けますが・・・笑。「勤務先企業が突然廃業したことで、起業せざるを得なかった」というのは、確かに誰にでもある状況ではありません。しかし38年の実績が、その状況をむしろ追い風に変えています。白書に「校正テスト」があることを私は知りませんでしたが、そこでトップを取り続けるということは、まさにホンモノ。ニッチな世界ではありますが大変なことです。「誠心誠意を込めた仕事ぶり」。背筋が伸びますね。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |