ワイヤー株式会社
中山 誠健さん
デザイン開発業 http://www.wireinc.jp
日常生活の中で使う医療機器のデザイン開発
現在、医療や福祉機器のデザイン開発を行っています。とはいえ病院にある高度な治療・診断装置ではなく、より日常生活に身近な通院や在宅介護における、健康維持や予防目的で利用するような機器が主な対象です。 便利な機能と安心・安全が求められる医療・福祉機器に対し、優れたテクノロジーと斬新な造形や利用者の体験をデザインする開発プロセスを通して、ユニークで全く新しい使い勝手や、見て楽しむ美しさを併せ持つデザインを提案し、人々の生活を豊かで楽しくする製品の開発を目的とした事業です。
2年ほど前に個人事業を本業をしながら立ち上げ、株式会社へ
起業する3年ほど前から事業を意識しはじめ、2年ほど前に本業をしながら個人事業を立ち上げました。 当時の本業は、博士研究員として大学に所属し、先端医療機器の研究開発プロジェクトのデザインを担当していました。医療と工学の連携で新しい技術を開発する研究機関のメンバーは、電気や機械が専門の工学系や生物系の研究者と医者で、デザイン分野は私一人だけでした。 約6年間で経験したデザインの研究開発や異分野との連携、海外の研究者やデザイナーとの交流は、起業の大きなきっかけと起業後に事業展開を支える貴重な経験となっています。
一方、経営に関しては殆ど準備をせずに起業しました。その点が最も不安でしたが、税理士の静間さんから起業から事業展開に関する経営の概要と要点を教えてもらいました。 また起業後は、より具体的な経営手法を学べる創業塾に参加し、基礎知識や実践的なアドバイスを得て、現在勉強中です。
見た目も使い勝手も良い製品を増やしたい思いで起業
異業種の研究者や医者と共に新しい技術とデザインが融合した機器の開発を成功させて、その成果を学会や国際的な展示会で発表してきました。また、デザインの先進国である北欧に短期滞在し、現地の大学や企業の研究開発やプロジェクトへの参加を通して、デザインの研究手法や開発プロセスを体験しました。 これらを経験する中で、専門分野の異なる人々や文化の異なる海外の人々から様々な影響とデザインに対する評価が得られました。その自信が徐々にデザイン活動の事業化をイメージさせ始めたように感じます。
起業した理由は単純に、見た目も使い勝手も良い製品を増やしたいという気持ちです。日本の製品の機能性や利便性は海外からも高く評価されています。しかし、使う人を喜ばせたり楽しくさせる製品開発については、特に医療や福祉機器の分野において追求する余地が残されていると感じています。人々が「製品の面白さ」や「高くても欲しいな」と思える斬新なモノ・コト造りを事業目標にできたことが起業の理由です。
斬新で柔軟なコンセプト作りと専門性を兼ね備えた開発が強み
デザイン業界の位置付けとしては、大手の医療機器メーカーやデザイン会社では実現が難しい「斬新で柔軟なコンセプト」の提案と、一般的なデザイン会社では把握し難い「医療や福祉に関する専門性を兼ね備えた製品」の開発を目指す点が、独自のアピールポイントです。 見た目だけの良さを提案する事業ではなく、新しい使い勝手と機器の専門性を併せ持った機能美を感じられる製品の開発に向けて、開発技術の意図や訴求ポイント、ターゲットのニーズや新たなユーザー体験を含むデザインコンセプトを提案しています。
従来は後付けの装飾的に捉えられがちなデザインを、開発の初期段階から医療者や技術者や製造業者と綿密に議論してまとめ上げていくデザイン開発のプロセスは、各プロジェクト事業で評価を得ています。 テクノロジーとデザインとユーザビリティーを一体的に考えて、モノ造り全体をデザインの観点からコーディネートすることで、開発の効率化とシンプルで使いやすい製品の実現を目指しています。
自分の売りや社会におけるニーズを客観的に捉える機会に
起業してまだ間もなく、社員雇用も今後予定している段階のため、正直、経営者になった実感は大きくありません。 起業して約4ヶ月の現在は、目の前にある複数のデザイン実務と事業を効率的に遂行できる環境とルーティーン作り、今後の事業拡大や安定化に向けた経営の勉強や自社の独自性をアピールするプロモーション作り、地元地域とのつながりや全国・海外との事業連携を目指したコミュニケーション活動などに取り組んでいます。
これら基礎的な活動しかしていませんが、起業前まで漠然としていた自分の売りや社会におけるニーズを客観的に捉えられるようになりました。 デザインのスキルや経営の仕組みを勉強しながら、大きな夢を持って成長できることに充実感を感じています。 一方で、経営者として全てにおいて責任ある選択と決断をしなければならない重責も感じます。今後の不安などを感じる時もありますが、その時は、事業仲間や先輩などを頼ってアドバイスを聞いたり、自分のやりたいことや夢を考えるようにしています。
起業を志す方へのアドバイス
私は、起業や会社の経営が目的ではなく、従来にとらわれない新しいデザイン開発の追求と製品化を実現するひとつの方法として、起業を選択しました。経営者としてもデザイナーとしても、まだ初心者で分からないことだらけですが、それゆえ何でもチャレンジ出来るとワクワクしています。起業して自分だけの新しい体験をスタートさせましょう。
アドバイザーからの一言豊かな時代では機能での差別化が難しく、デザイン性が重要になると言われています。中山さんの取り組みは、医療・福祉機器の分野で「デザインとユーザビリティーの共存」を考えていくというお仕事。前例が少ない「挑戦」ですが、まさに時代にマッチした取り組み。楽しみです。 中小企業診断士・マーケティング塾代表講師 姫野 裕基 |