Miジャム
伊藤 理子(いとう みちこ)さん
どのような事業をされているのですか?
2019年の3月に専用の工房を持ち開業届を出しました。ジャムの作成とイベント販売から始め…た途端コロナ禍になり通販も開始しました。近隣の農家さんとの交流も増え、地元産の多様な果物も使用できるようになったことで、地元のカフェや菓子、パンの店舗でも販売していただいています。現在はジャムの他にも果物やジャムを使用した加工品を試作しています。地元のお客様の地産地消のお気持ちに応えたり、東京のお土産品としてお求めいただけるよう努めています。
創業のきっかけを教えてください。またなぜ創業したのですか?
私は、果物を見ると「煮たい!」という衝動に駆られる人間です。材料や工程で全く異なる出来栄えになる奥深さ、そして手間をかけた分だけ美味しくなることに魅力を感じ、毎年毎シーズンの楽しみとなりました。そんな私のジャムを食べて楽しんでくれる家族や友人に恵まれて、販売して欲しいとも言ってもらえました。しかし販売という方向に舵をきるには大きな課題がありました。食品は家庭で作ったものは販売できず、営業許可を取った場所で作成、包装したものでなければなりません。ジャムのために商業用の物件を借りる。リスクの方が大きく思われつつも魅力的で、それを目標にまずはシェアキッチンを借りて作成し、販売イベントに参加するようになりました。当時、夫の応援もありましたが、縁が続かず離婚という人生の大きな転機が訪れました。一人で生活できるのかという不安はあったものの、ジャムを煮ない生活はもっとできないと感じたのです。実家に協力をお願いして、創業スクールなどにも通い、工房となる物件に出会うこともできたのでした。趣味が高じての創業、甘い考えといった内なる声(笑)もありますが、7年目に入ってなお「果物を見ると煮たくなる」ということは、自分に合った道なのだと感じています。
創業してしばらく経ちました。実際にやってきてどうでしたか?
開業から6年、小規模ながらもジャム作りを続けられています。この間、少しずつお客様が増え、イベントや通販で何度も購入してくださるリピーターさんがいらっしゃるのがとても嬉しいです。お客様が「〇〇さんにジャムを差し上げたら喜ばれたよ」と報告してくださったり、「この果物のジャムを食べてみたい」とリクエストしてくださったりするたびに元気をいただいています。また、ジャム作りに欠かせない果物を提供してくださる取引先の農家さんも増えました。お客様がご縁を繋いでくださった方もいらっしゃいます。農家さんからは果物のことだけでなく、その仕事に対する姿勢や取り組みについて教えていただくことで、新たな気づきややる気をもらうことも多いです。例えば、多くの品種を扱っている農家さんのおかげで、品種ごとのジャムを煮てみたり、自分では思いつかなかったミックスジャムが定番になったりしました。単なる仕入先ではなく、お互いを労わり合える仲間として、果物の季節を迎えられる喜びを得ることができました。それから、小さめの催しのお声がけを直接いただくようになってきました。販売の機会をいただいたり、企画への参加でジャムを作成したり、ジャムづくり教室の講師依頼といったものです。これも、これまでの繋がりからのご紹介が多く、関係者の皆さんのおかげだと感じています。
苦労や想定外のことをどう乗り越えましたか?
開業当初、ブランディングが不十分だったため、自分の考えだけで行き詰まることも多かったです。そんな時、武蔵野商工会議所の経験豊富な職員や中小企業診断士の皆さんに長期で相談に乗っていただき、大変心強かったです。支えてくださる中で、愛媛県の「ダルメインWorldマーマレードアワード」への出品を勧められました。毎年挑戦した結果、4年目にしてベストカテゴリー賞を受賞。客観的な評価をいただくことで、大きな自信と頑張れる勇気を持ちました。チームの皆さんは、セオリー通りの助言だけでなく、私に合ったやり方を一緒に考えてくださるので、信頼して話すことができました。対話を通じて、自分では気づかなかった本当の悩みも探り当ててくださいました。また、クラウドファンディングに挑戦した際には、マネジメントブレーンのスタッフの方にサポートしていただきました。作成作業に集中し、販売に積極的になれなかった私に、具体的な目標設定や締め切りのリマインドなど、きめ細かく寄り添ってくださったおかげで、目標を達成することができました。こうした経験を重ねて「わからないことは専門家に頼る」「苦手なことに挑戦する際には、人の助けを求める」ことの大切さを再認識しました。これからも、周りの方々と協力しながら、新たな挑戦を続けていきたいと思います。
今後の展開を聞かせてください。
ジャム作りを続ける中で、私は「小ロット多品種」が弱みではなく、最大の強みという実感を増しています。今後はこの強みをさらに活かし、単に多くの種類のジャムを煮るだけでなく、ひとつひとつのジャムに、その果物が持つ個性や物語を反映させていきたいと考えています。ジャムは嗜好品で、同じ果物や砂糖で作られたものでも、それぞれの作り方、表現される味や食感は全然違うのです。品質や日持ちでは工場で作られている大きなシェアの商品にはとてもかないませんが、小規模だからこそできる、お客様とのコミュニケーションがあります。「オリジナルラベルを使用したい」「この果物でジャムを作ってほしい」といった気軽なリクエストに応えたり、時にはお客様の声から生まれた特別なジャムを数量限定で提供するなど、共に新しい試みに挑戦していきたいです。また、長くジャム作りを続けるためにも、体を資本とし、無理なく末永く続けるための努力を続けていきます。お客様や農家さん、そしてこれまで支えてくださった皆様との温かい繋がりを心に、これからもジャム作りの道を歩んでいけたらと思います。
起業を志す方へのアドバイス

勤め人だった頃よりも、様々な業種の方々と接したときに、学びや気づきを得られるようになりました。それは主体的な考え方をするようになったからだと考えています。自分や一つのグループの考えに拘らず、多様な視点やアイデアを吸収することが大切だと思います。ただ作ったものを売ろうとするのではなく、なぜこれを提供したいのか、お客様に求められないならそれはなぜなのかといった問いは大事で、お客様が喜んでくれることを想像して臨んだ先に、満足してもらえて嬉しいという達成があると思います。
アドバイザーからの一言果物を見ると「煮たい!」という衝動に駆られる――。伊藤さんのジャムづくりへの深い愛情が伝わってきます。しかし、単に好きという気持ちだけで6年以上も事業を続けることはできません。作ることと売ることはまったく別の力が求められます。伊藤さんの取り組みからは、生産者や顧客、商工会議所など、周囲の人々をその人柄とジャムの魅力で惹きつけ、相乗効果を生み出している様子がうかがえます。根気強く毎年コンテストに挑戦し、受賞を重ねている点も大きな強みでしょう。初めてお会いしたときは控えめな印象でしたが、今ではすっかり頼もしい経営者に成長されたと感じます。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |









