欧風カレーイナバ & Bistro ideal
稲葉 雄太(いなば ゆうた)さん
いつ創業し、どのような事業をされているのですか?
私は2021年1月に創業し、現在は昼と夜で異なる顔を持つ飲食店を運営しています。昼は「欧風カレーイナバ」として、濃厚ながらくどさのない欧風カレーを提供する専門店。夜は「Bistro ideal」として、近江牛やワインに合う創作料理を揃えた酒場として営業しています。〆には看板のカレーも楽しめるスタイルです。
創業のきっかけを教えてください。またなぜ創業したのですか?
「35歳で独立する。」
それは20代の頃から、ずっと心に決めていた目標でした。高校時代、飲食店でのアルバイトで初めてキッチンに立ち、“自分の仕事で人が笑顔になる”という体験に衝撃を受けました。それ以来、「ものを作る仕事を通じて、人の役に立ちたい」と思うようになり、18歳で料理人の道へ進みました。ただ料理を作るだけでなく、目の前の人の心を動かすことができる、それが飲食という仕事の魅力でした。一方で、若い頃はロックスターに憧れ、バンド活動にも打ち込んでいました。夢は叶いませんでしたが、それでも「何者かになりたい」という思いは残りました。自分の力で、自分の人生を、自分の表現で切り拓いていきたい。その答えとして、飲食の世界で独立することが、自然と目指すゴールになっていきました。そして2021年、長年の経験と想いをもとに、自分の店を持つという決断をしました。いまの事業の根底には「料理と会話、両方で記憶に残る店をつくる」という理念があります。料理人である前に、人に活力を与えられる存在でありたい。それが、私が創業を決めた最大の理由です。
創業してしばらく経ちました。実際にやってきてどうでしたか?
創業当初は「Ideal Curry Inaba」という名前で店を始めました。“Bistro & Curry”というセカンドネームは付けていたものの、カレー専門店としての印象が強く、夜の営業はまったく振るわない日々が続きました。ドリンクを楽しむお客様はほとんどおらず、夜もカレー単品での利用が中心。当然ながら客単価は上がらず、収益面では非常に苦戦しました。さらに、実際に店を運営してみて痛感したのは、飲食店経営における業務の多様さと重さです。仕込み・調理に加え、経理・仕入れ・販促・SNS発信・新メニュー開発・人材育成……。“料理だけできればいい”という時代はとうに終わっており、日々のマルチタスクに追われる中で、料理人としての自分をどこか置き去りにしてしまっているような感覚がありました。また、コロナ禍とSNS全盛が重なったこともあり、自分の軸が一時的にブレていたことも否定できません。周囲のシェフたちが投稿する華やかな料理を目にするたび、「もっと映える一皿をつくらないと」と焦り、気づけば本来やりたかった“酒場の料理”ではなく、まるでフレンチレストランのような品を追い求めていました。もちろん、その時々の状況に合わせて柔軟に対応していたとも言えます。けれど、今振り返れば、「自分は何のためにこの店を始めたのか?」という軸が揺らいでいた時期だったなと感じています。
苦労や想定外のことをどう乗り越えましたか?
まず取り組んだのは、“夜もカレー屋”というイメージを払拭することでした。昼と夜で営業スタイルを明確に分け、昼は「欧風カレーイナバ」、夜は「Bistro ideal」として、異なる顔を持つ2つの店として打ち出しました。これにより、夜にはワインと小皿料理を楽しむ酒場としての認識が少しずつ広がり、ドリンクの注文も増えていきました。また、自分ひとりでなんとかしようとする限界にも気づきました。創業前は「個人店=オーナー1人がすべてを担うもの」と思い込んでいましたが、その固定観念を手放しました。自分の分身を育てるつもりでスタッフに任せる範囲を広げ、チームで店をつくっていく運営スタイルに徐々に切り替えていきました。夜の業態に関しては、“マーケットイン”と“プロダクトアウト”の両方の視点を持ちながら、「お客様と自分たちの理想がつながる形は何か?」と問い続けています。店名にも込めた“ideal=理想の形”を、今も模索しているところです。“映える料理”ではなく、“また食べたくなる味”。“完成度の高い一皿”よりも、“もう一口食べたくなる空気感”。そんな、記憶に残る一皿を、これからも作っていきたいと思っています。
今後の展開を聞かせてください。
現在すでに、店舗の看板商品であるカレーのレトルト化に着手しています。初期は私自身がOEM工場に出向き、現地スタッフにレシピや工程を直接指導。今後は年間5000食、売上600万円の達成を目標に、3年以内の完全委託体制を目指しています。販路は、店頭・BtoB・ECサイトの三本柱で展開予定です。地域の物販店や高級スーパーへの営業と並行して、自社ECサイトの構築も進めており、“欧風カレーイナバ”というブランドの認知をさらに広げていきます。都内でもう1店舗を展開する構想も進行中です。5年後には法人化を進め、「中食」分野にも本格参入予定です。近隣限定で高齢者や共働き家庭向けの惣菜サブスクを始め、家庭の夕食支援を目指します。「作り置き・jp」のようなモデルへのフランチャイズ加盟も、将来的な選択肢の一つです。また、飲食業の新たな可能性として、ドローン配送にも注目しており、インフラ整備の状況を見ながら対応していきたいと考えています。10年後には、都内に3店舗、地方に1店舗を構え、地方にBtoB専用の食品工場を設立。“食”を軸に、製造・販売・配送までを担うインフラ型企業への進化を目指しています。
起業を志す方へのアドバイス
もし独立を迷っているなら、挑戦した方がいいと思います。創業はとても厳しい世界です。自由はありますが、そのぶん全ての責任を背負う覚悟が必要です。ただ、自分の判断で物事を決め、誰かの喜びをダイレクトに感じられるのは、この道ならではの魅力です。完璧な創業の準備はないと思います。うまくいかないことも含めて経験です。少しずつでもトライ&エラーを繰り返しながら、理想の形を探していけばいい。「自分の力で道を切り拓きたい」という想いがあるなら、それはもう十分、はじめる理由になります。
アドバイザーからの一言ご本人がおっしゃる通り、創業塾で出会った当初は「カレー専門店」を開業する計画だったと記憶しています。オープン前には各種セミナーを通じて入念に準備を進め、開業後はトライ&エラーを重ねながら柔軟に軌道修正を行っています。こうした稲葉さんの柔軟性こそが、事業を継続してこられた大きな要因でしょう。飲食業にとって最も厳しいコロナ禍の時期での開業だったはずですが、時代の変化を追い風にして、今では事業拡大に向けた具体的なロードマップを描いています。ビジョンは具体的であればあるほど実現に近づくものです。稲葉さんなら、きっと実現してくれるでしょう。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |









