有限会社茶房武蔵野文庫
齋藤 園佳(さいとう そのか)さん
https://sabo-musashinobunko.jimdofree.com/
いつ創業し、どのような事業をされているのですか?
2015年に教育事業で起業したのち、カフェ業界へ転身。2022年、廃業寸前だった「雨の木なコーヒー」を引き継ぎ再生。さらに2024年5月、吉祥寺の老舗純喫茶「茶房武蔵野文庫」を事業承継し、40年続く喫茶文化を未来へつなぐ挑戦を続けています。地域の人々の“心の居場所”を守り、育てることが私の仕事です。
創業のきっかけを教えてください。またなぜ創業したのですか?
私が初めて事業を始めたのは、ふたり目の子どもが1歳になった頃でした。時給や月給で働く働き方ではなく、もっと時間も裁量も自由に、自分の関心のあるビジネスに挑戦したい——そんな思いが芽生えたのがきっかけです。とはいえ、当時はビジネス経験ゼロ。そこで目をつけたのがフランチャイズでした。本部のサポートを受けながら、仕組みやノウハウを学べる環境は、挑戦の第一歩に最適でした。さらに幸運なことに、そのフランチャイズ本部が直営で持っていた店舗を譲ってくれるという条件が提示されました。ゼロからの創業ではなく、「事業承継」という形でのスタートです。この経験が、私の事業スタイルの原点となりました。以後も新規開業ではなく、廃業や事業転換を控えた店舗を引き継ぎ、再生・発展させることを自分の使命と考えるようになります。2022年には、閉店間際だった「雨の木なコーヒー」を承継し、地域に愛される店として継続運営しながら新しい価値の創出を模索し続け、吉祥寺でも唯一無二のコーヒーショップに導きました。そして2024年5月、吉祥寺で40年以上の老舗純喫茶「茶房武蔵野文庫」を事業承継。過去から受け継いだ伝統を守りながら、時代に合わせたアップデートを加え、次の可能性へと広げていく——これが、私の創業の原点であり、今も変わらぬ挑戦です。
創業してしばらく経ちました。実際にやってきてどうでしたか?
経営は、外から見ているだけでは分からないことだらけで、実際にやってみると想定外の連続でした。お金のこと、人のこと、運営のこと――悩みや不安も尽きません。けれども一歩踏み出したからこそ、今まで見えなかった景色を数えきれないほど見ることができました。経営を通して痛感したのは、すべての出来事は自分自身を起点としているということです。うまくいかないことも、結局は自分の未熟さから生まれる。だからこそ「自己責任原則」を強く意識するようになりました。その一方で、経営によって得られたお金や経験は、お客様や周りの人からいただいた「ありがとう」と「信用」の証です。さらに、支援してくださる方々の想いや、人と人との繋がりの大切さを、経営を通じて強く実感しています。人は一人では生きていけません。誰かと繋がり、労わり合い、応援し合えることのありがたさに、日々感謝しています。事業承継という形で次々とバトンを受け取り、仲間と共に困難を乗り越える中で、私は「他責にせず、すべてを自分事として受け止める」姿勢を学びました。そして、人とのご縁や支えに恵まれたこと自体が、創業して本当によかったことだと心から思っています。
苦労や想定外のことをどう乗り越えましたか?
事業を続ける中で、苦労は数え切れません。日々不安もありますが、タイプ的に悲観はなく、「まずやってみる」ことを大切に目の前のことに全力で取り組んでいます。フランチャイズ加盟時代には、集客のため駅前でチラシを配り、商業施設イベントに出店、街の催しでは自ら着ぐるみにも入りました。設備不良があればビルの天井裏に潜り、社員の悩み相談を夜中に受け、涙を分かち合ったこともあります。コーヒー店時代は売上が厳しく、猛暑のマルシェで販路拡大に挑戦したり、新たな顧客獲得は地道で決して華やかなものではありませんでした。店長が突然辞めて明日からどうやってオペレーションしていこう…と窮地に立ったときには、自分のマネジメント不足を痛感し、情けない思いで一杯になったことも。そして2024年、「茶房武蔵野文庫」を事業承継した際には、譲渡が公になってから前オーナーとスタッフが退陣するまでわずか1か月半。採用も1か月で完了させる必要があり、毎日アドレナリンが出っぱなしで夜も眠れませんでした。それでも新しい仲間たちは元気にシフトを守り、初めての業務にも一生懸命取り組み、共に乗り越えてくれました。その姿に心から感謝しています。結局のところ、私が一人で成し遂げられることは本当にわずかで、スタッフやお客様、仲間や友人に支えてもらって今の私があります。人とのつながりこそが最大の力だと確信しています。
今後の展開を聞かせてください。
3年後
吉祥寺の「茶房武蔵野文庫」をモデル店舗として磨き上げ、ブランドコンセプトやオペレーションを確立。フランチャイズ展開の準備を本格化し、志を同じくするオーナー仲間を全国に増やしています。平日は空席時間の活用や新メニュー開発で収益性をさらに高め、承継ビジネスの成功事例として注目される存在になっていたいです。
5年後
全国に数店舗のフランチャイズ加盟店を持ち、それぞれが地域に根差しながら「人と人をつなぐ純喫茶文化」を広めています。本部としては、加盟店への支援体制や教育プログラムを充実させ、安定的な経営とブランド価値の維持を両立。加えて、他業種や地方の事業承継案件にも参画し、地域資源を活かした再生モデルを広げています。
10年後
海外にもフランチャイズ拠点を展開し、日本と海外を行き来する生活を実現。大好きな自然の中で家族と過ごす時間を大切にしながら、事業承継で培ったノウハウや経験を多くの人に伝えています。国内外の後継者不足解消や文化継承に貢献し、次の世代へバトンを渡す役割を担っていたいです。
起業を志す方へのアドバイス

経営は想定外の連続ですが、挑戦しなければ見えない景色が必ずあります。大切なのは「自己責任」の姿勢と、人とのご縁を大切にする心です。小さな事業だとしても、それは一人では成し遂げられません。仲間やお客様の支えに感謝し、失敗も学びとして受け止めることで、事業は必ず成長します。恐れずにどうぞ楽しんで一歩前に踏み出してください。
アドバイザーからの一言本事例は、事業承継の中でも第三者承継に関するものです。日本の人口構成においては団塊の世代が大きなボリュームゾーンを占めており、それは中小企業・小規模事業の経営者層においても同様です。優良企業であっても親族や従業員に承継者がいない場合は、やむを得ず廃業に至るケースも少なくありません。こうした状況は武蔵野地域に限らず日本全体の課題といえるでしょう。齋藤さんは、この問題意識を事業の原点・使命とされ、社会課題の解決に直結する大変意義深い取り組みを進めています。さらに、武蔵野から全国へと活動を広げていく構想もお持ちとのこと。地域発の挑戦として、今後の展開に注目です。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |









